3月14日から16日に開催された第66回日本植物生理学会年会に参加してきました。今年は中野ひとりでの参加です。
中野はシンポジウム「Undgerground Chatter: Underground Chatter: The hidden but lively exchange at the root-soil interface」をオーガナイズしました。

地上部の免疫応答、特に病原菌に対する抵抗応答はとてもよく研究され、様々なことがわかってきています。ところが地下部、根における免疫機構のあり方というのは実はまだあまりよくわかっていません。比較的微生物の密度が低く、突発的な病原菌との出会い(雨水や動物、虫など)に対応することが求められる地上部と、常に高密度の土壌微生物に晒されながら、有用な共生菌を受け入れながらも病原菌を排除しなければならない地下部では、「植物微生物相互作用」というもののありかたがそもそも異なっているはずです。
このシンポジウムでは、そんな「根の免疫機構」に着目して議論を進めました。
中国・華中農業大学の津田賢一さんは、シロイヌナズナの根に定着する常在細菌との相互作用の制御や地上部への免疫シグナルの伝達にピペコリン酸が果たす役割について紹介してくださいました。私はシロイヌナズナの根の常在細菌が根の免疫応答を操作するメカニズムや、その免疫応答が常在細菌の挙動に与える影響について議論しました。奈良先端科学技術大学院大学の大津美奈さんは、根に固有の病害生物であるシスト線虫が根の細胞運命を改変してシンシチウムと呼ばれる巨大細胞を作る際に植物細胞内で何が起こっているのか、独自のRNA-seq解析技術を用いた結果を紹介してくださいました。京都大学の安達広明さんは、植物の進化の過程で免疫受容体NLRがどのような進化を遂げてきたのか、祖先的なNLRネットワークが葉や根でどのように機能していたのか議論してくださいました。スイス・バーゼル大学のKlaus Schlaeppiさんは、根圏から分泌される二次代謝産物が土壌微生物叢を変化させて次世代の植物の生き様に影響を与える「microbiota feedback(soil legacy)」と呼ばれる現象について、シロイヌナズナの根で発現する免疫関連因子の関与を明らかにした、画期的な成果について紹介してくれました。
シンポジウム後は金沢の料理屋さんにて、これから我々がどういう方向に研究を進めていくべきか、様々な議論を繰り広げました。あまりに議論が盛り上がりすぎて、集合写真を撮り忘れたので、翌日ポスター会場で海外ゲストふたりをなんとか捕まえて写真を撮り直しました。
Klaus、津田さん,大津さん、安達くん、忙しい中素晴らしいトークをありがとうございました!

2日目には、日本植物生理学会国際委員会および海外日本人研究者ネットワーク(UJA)の共催で、ランチョンセミナー「留学のすゝめ」を開催しました。日本の科学の難しい状況がいろいろなところで話題になりますが、その煽りを受けてか、やはり日本の植物研究者の国際的なプレゼンスがじわじわと低下していることを感じています。しかしこうやって植物生理学会の年会などに参加していると、とにかく世界トップクラスの研究がたくさん発表されていて、ものすごいクオリティのサイエンスを感じます。今回スイスから招待したKlausも、そのアクティビティの高さやクオリティに非常に驚いていました。

JSPP国際委員会では、なんとかこういった研究者たち、とくにEarly Career Researcherたちがもっともっと国際的に知られて、もっと世界から脚光を浴びるような世界になっていくことを支援できるよう、色々に活動をしています。そのひとつが、海外留学・渡航の支援です。今年度から始まったMIRAI 2030プロジェクトでも、短期・中期の海外渡航にかかる費用を援助しています。ところが、どんなに支援があっても、やはり「行きたい」と思う人材がいなければどうにもなりません。そこで本ランチョンセミナー「留学のすゝめ」では、漠然と不安をもつみなさんの情報源になるべく、留学経験者の皆さんにパネリストとしてご参集いただき経験を語ってもらいました。ショートトーク後のパネルディスカッションではオーディエンスからの様々な質問に答えました。お金はどうするのか、言語問題はどうなのか、現地の生活にはどう適応するのか、など、毎度のことながら質問が尽きることはなく、終了後の交流タイムにも多くの方が押し寄せて話を続けていました。
今年で3回目となったランチョンセミナー「留学のすゝめ」ですが、来年の東京大会でも開催を予定しています。こんな人を呼んでほしい、こんな話が聞きたい、あるいは我こそは喋りたいから呼んでほしい、という方など、ご意見ありましたらいつでもご連絡ください。忙しい中パネリストでご登壇いただいた林さん(ドイツ・マックスプランク植物分子生理学研究所)、亀岡さん(中国科学院分子植物科学卓越創新センター)、長江さん(理化学研究所)、中山さん(東京大学)、佐藤さん(東北大学)、ありがとうございました!!

東京での開催となる来年は、RTNakanoLab初、学生さんたちと一緒の参加となる予定です。日本でもっともアクティビティの高い学会のひとつである日本植物生理学会で、どんな刺激を受け取ってくれるのか、今からもう楽しみです。