はてさて,実は静かにずっと色々と共著論文が出版されています。その全てを一気に紹介しようと思ったのですが,存外長くなりそうなので,まずは最新のものをひとつ。過去の私たちの関連論文と絡めてご紹介します。
Distinct and Intermediate Bacterial Community Structure of the Wasabi Rhizome Based on Compartment-resolved 16S rRNA Gene Profiling
Masayoshi Hashimoto, Kana Ohata, Ryohei Thomas Nakano, Hisae Hirata, Yusuke Katai
Microbes and Environments41(2) ME26005 (2026)
https://doi.org/10.1264/jsme2.ME26005
こちらは静岡大学の橋本将典さんとの共同研究です。私たちが食べているワサビ。あれ,根だと思っていませんか?実は地下茎(根茎)と呼ばれる,「茎」の一部なんです(参考:日本わさび協会 https://www.wasabi.or.jp/knowledge/character)。みなさんの食卓に並ぶ時には,根はすべて除去されています。
さて,私たちは主に根の微生物叢について研究をしているわけですが,根と同じく土に埋まっているけれど,発生学的には地上部の茎とよく似た地下茎には,どのような微生物叢が形成されているのでしょうか?橋本さんは,ワサビの名産地である静岡という利点を活かしてそのマイクロバイオータの構造を明らかにしました。すると,地下茎のマイクロバイオータは根とも葉とも違う,その中間くらいのマイクロバイオータを示していることが明らかとなりました。
地下茎といえば,私は以前,滋賀県立大学の荒木希和子さん(当時京都大学・生態学研究センター)と一緒に,コンロンソウという植物の地下茎の研究に携わったことがあります。コンロンソウは地下茎でクローナルに増える植物で,やはり発生学的には茎であり,地上部と似た発生制御システムを持ちます。しかし,荒木さんの発見によると,免疫システムはどちらかというと根によく似ているものを利用しているようなのです。橋本さんの発見と合わせると,なんだか心がワクワクしてきます。
Characterization of rhizome transcriptome and identification of a rhizomatous ER body in the clonal plant Cardamine leucantha
Kiwako S. Araki, Atsushi J. Nagano, Ryohei Thomas Nakano, Tatsuya Kitazume, Katsushi Yamaguchi, Ikuko Hara-Nishimura, Shuji Shigenobu, Hiroshi Kudoh
Scientific Reports (2020) 10, Article number: 13291
https://doi.org/10.1038/s41598-020-69941-9
さらに言うと,ワサビもコンロンソウもアブラナ科の植物で,抗菌物質として知られる「グルコシノレート」を大量に蓄積します。グルコシノレートはそれ単体では強い活性は示しませんが,「ミロシナーゼ」という酵素と出会うことで「イソチオシアネート」という化学物質に変換され,これがヒトにとってはワサビの風味,虫にとっては忌避物質,微生物にとっては抗菌物質として働くのです(横文字ばっかりですみません)。
で,このミロシナーゼですが,私は様々なご縁のある酵素です。その詳細は,先日のお知らせ「神戸大・水谷ラボ来訪」にて書きましたので割愛しますが,PYK10と呼ばれるミロシナーゼに並々ならぬ縁があります。PYK10はER bodyという特殊な細胞内構造に蓄積されていて,グルコシノレートの代謝に関与していることが示唆されていました。数年前には,当時ポーランドのヤギェウォ大学の山田健志さんのもとでPhDをやっていたArpanと一緒に,このER body蓄積型ミロシナーゼが根圏微生物の挙動を操作し,根圏マイクロバイオータの構築に寄与していることを示しています。
ER body-resident myrosinases and tryptophan specialized metabolism modulate root microbiota assembly
Arpan Kumar Basak, Anna Piasecka, Jana Hucklenbroich, Gözde Merve Türksoy, Rui Guan, Pengfan Zhang, Felix Getzke, Ruben Garrido-Oter, Stéphane Hacquard, Kazimierz Strzałka, Paweł Bednarek, Kenji Yamada, Ryohei Thomas Nakano
New Phytologist, 241: 329-342 (2024)
https://doi.org/10.1111/nph.19289
こうやってみていくと,なんか色々とヒントは見えてくるのですが,結局のところ植物のどのような要素が,根や葉や地下茎に特異的なマイクロバイオータを構築することに寄与しているのか,その詳細なメカニズムはあまりクリアにはわかりません。ひとつのヒントとして,多くの植物は組織ごとにまったく異なるグルコシノレートを蓄積していることが知られています(グルコシノレートにも色々と種類があるのです!)。また,ER bodyの有無や,その容態も組織によってかなり異なっています。なんか,こういったことが寄与しているような気もしますが,果たしてどうでしょうか。私たちは,こういった化学防御を含む「植物免疫」が,常在微生物の振る舞い(動き,増殖,環境応答など)にどのような影響を与えるのかを明らかにすることで,その全貌を明らかにすることを目指しています。化学防御のやり方は組織間だけでなく組織内でも場所によって違うことは昔からよく知られています。このような「空間パターン」も取り込んだレベルでその相互作用を丁寧に記述していくことで,植物免疫によるマイクロバイオータの機能制御・振る舞い制御のメカニズムを明らかにしていきたいと思っています。そんな研究に興味がある学生さんは,気軽にご連絡ください。修士課程からの入学,学振DC1や学振PDのホストなど,応相談です。
最後に余談ですが,グルコシノレートは1分子あたり2つの硫黄原子を含みます。硫黄代謝的には随分と贅沢な物質です。実際,硫黄欠乏条件でシロイヌナズナを育てるとグルコシノレートの蓄積が急速に減少することが古くから知られています(理研の平井さんのお仕事が有名; https://doi.org/10.1073/pnas.0611629104)。ではこういった硫黄欠乏条件の時,すでに蓄積しているグルコシノレートに含まれる硫黄はどうなっていくのでしょうか?実はこの時にも,やはりミロシナーゼが重要な役割を担っているのです。といっても,抗菌物質や忌避物質を作って放出するのではありません。BGLU28やBGLU30(私が2017年に「ミロシナーゼであるはず」と予測した数多くのものの一部です; https://doi.org/10.1111/tpj.13377)というミロシナーゼが硫黄欠乏条件でグルコシノレートを分解すると,これらの硫黄は最終的にシステインという硫黄を含むアミノ酸に取り込まれ,生育に必須な硫黄代謝へと流用されていくことがわかったのです。実際,BGLU28やBGLU30を欠損した変異体では硫黄欠乏条件で生育が野生型より顕著に阻害されてしまいます。このような,グルコシノレートからの硫黄の回収は,古くからその経路が予言されていたものの,誰も実際に示すことができていなかったアイディアでした。千葉大の杉山龍介(当時・理研CSRS)さんは,もちまえの有機化学・天然物化学に関する圧倒的な技術を用いて,このコンセプトをこれ以上なく美しく立証してみせました。2021年にスペイン・セビリアで開催されたS-Bio2021(Joint meeting for Plant and Human Sulfur Biology and Glucosinolates)では,杉山さんのトークに会場が割れんばかりの拍手が送られました。コロナ明け直後だったため,杉山さんが現地参加できずオンラインでの発表だったのが,何よりも口惜しいところです。私も色々と何度も議論を重ね,僅かながらにこの仕事に貢献させていただけたことを,本当に名誉に思っています。
Retrograde sulfur flow from glucosinolates to cysteine in Arabidopsis thaliana
Ryosuke Sugiyama*, Rui Li*, Ayuko Kuwahara, Ryo Nakabayashi, Naoyuki Sotta, Tetsuya Mori, Takehiro Ito, Naoko Ohkama-Ohtsu, Toru Fujiwara, Kazuki Saito, Ryohei Thomas Nakano, Paweł Bednarek, and Masami Yokota Hirai
PNAS 118 (22) e2017890118 (2021). *Co-first authors.
https://doi.org/10.1073/pnas.2017890118
ちなみに,グルコシノレート界隈では「一度グルコシノレートに関わったものは2度と離れることができない」という呪い?ジンクス?があります。今はチューリッヒ大学でendodermal barrierなどの研究をしているTonni Grube Andersenも,学生時代にBarbara Ann Halkierのラボでグルコシノレートの研究をしていて,なんの因果かMPIPZで私と同僚になってしまい,結局いまでも一緒にグルコシノレートとマイクロバイオータの関わりに関する共同研究を続けています。こちらについても近いうちにいい報告ができることを楽しみにしつつ,今日のところはこれくらいでおしまいにしようと思います。
Long live the glucosinolate freaks!!
